元禄元年の夏のことであったという。
さすらいの絵師坂田音五郎は久留米藩に採用され、仕官までの間、八女の正福寺で寝泊りしていた。
寺の本堂の改修のため出入りする職人達の間では、近頃墓で火の玉が出るという噂が広まっていた…
ある夜、音五郎が本堂の障子を開け放っていると、火の玉とともに女の幽霊が現れた。
音五郎は平然と幽霊に話しかけた…
聞けば、女は50年前に流行りの病で亡くなったが、今は身内も皆亡くなり、墓も掘り起こされてしまったため、現世に戻って来ても行き場がないのだという。
音五郎は女の幽霊に現世への未練を捨てるよう説得したが、聞き入れられず、それではと幽霊の姿をありのままに写生してみせ、この絵を身代わりとしてこの世に残してはどうかと提案した。
すると幽霊は納得して消え去り、その後は墓で火の玉を見る者はいなくなったという…
寺では、今も毎年お盆になると幽霊の絵の掛け軸が掲げられているらしい…